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――――僕は星の声が聞こえる。

誰かに説明するときは必ずそういう。でも本当は違う。
僕にだけ聞く能力があるのではない。
みんな、星の声に耳を傾けなくなってしまっただけなんだ。
星の声はどこにいても聞くことが出来る。
木や水や、大地はもちろんこの地球上すべてから。
いつだって彼らは人間たちのそばで囁いていた。
人間たちも星の声を聞いて生活していた。
聞くことが当たり前だった。
……だけどいつしか、人間たちは自分を別の立場の生き物だと
考えるようになった。
人間は星をコントロールする術を覚えた。星の声を聞かなくても、
星を自分の思い通りにできてしまう。
支配する力に魅入られ、優越的で快楽的な力に、人間たちは
蜜へ群がる虫のように飛び付いていった。
……星の声は、あまりに小さかった。
こうして人間は、星の声を聞かなくなってしまった――――


木――――

いつもの帰り道。
今日も星の声を聞きに、いつもの場所へ向かう。
綺麗な景色が見える丘の上。
一本だけ木の生えた、町が見下ろせる見晴らしのいい場所。
――僕はそこで命に告白された。
命の真摯な気持ちに、断る理由なんてなかった。
お互いの事はこれから知り合っていけばいい。
そのくらいに思っていた。
この日を境に、僕の生活は変わった。
いつも一人だった通学は、命と一緒になった。
いつも一人だった昼食は、命と二人で食べるようになった。
些細なことでも命が手助けしてくれた。
……嬉しかった。
もっとも、命の方もどこかぎこちなく、
自分の気持ちをどう表現していいか悩んでいる様子だった。
星の声によれば、彼女は照れているだけだと言う。
こんないい子が、どうして僕の事を好きになったのだろうか。
気になるけど、今は命の笑顔が見れればいい。
――まだ二人は歩き始めたばかりだ。



海――――

休日、命と最初のデートの日だ。
しかし命は、待ち合わせ場所に、
いつまでたっても現れなかった。
今日に限って、星の声も小さくて会話ができない。
座っているだけの時間に耐え切れなくなったころ、
ようやく命からメールが来る。
どうやら風邪で寝込んでしまったらしい。
動けない命のために、
デートコースがどんな場所だったかを話して聞かせようと考え、
今日のデートコースを一人で辿る事にした。
……最後の場所、海へ来た時。
僕は突然、苛立った声をぶつけられる。
「どうして命のそばにいてやらないのか」
見ると、そこにはサクラソウの花を持った少女が立っていた――――。


石――――

海で出会った少女、九重愛。
海を見つめる姿はどこか神秘的で、
妖精かと思うほどだった。
彼女はいろんなことを知っていた。
僕自身のこと、命のこと、そして僕と命の関係も。
気づくと、僕は命とどう接していいか困ると彼女に相談するようになっていた。
海と森との境にある岩場に行けば、いつも会えるから。
彼女は答えをくれるから。
決して易しい答えではないのに、答えを貰わずにいられなかった。
彼女はただ、命が喜ぶようにと僕に教えてくれた。
それが何を意味していたのか、何も知らずに。



空――――

海と同じくらい、青い空。
どこまでも続く、青い空。
二人で仰いだ、青い空。
いつまでも、この空の下にいられると思っていた。
命はいつも笑っていて。
命の笑顔が、僕にとって当たり前になっていて。
愛はやさしくしてくれて。
愛の言葉が、僕にとって無くてはならいものになっていて。
ずっと続くものだと思っていた。
……続いて、欲しかった。




星――――

全てを知った僕は、選択を迫られた。
それはとてもとても大事な選択で、
決めることであらゆる運命を変えてしまうほどのものだ。
僕はどちらかの答えを求められた。
右と左。生と死。過去と未来。光と闇。
二つに一つ。
最初から結末は決まっていたのかもしれない。
…………もう、星の声を聴くことはできなくなるかもしれない。
僕は、答えを選択した――――



そして、あなたは結末を迎える。